Last Update : 2025/10/16

はじめに
ジェンダーとキャリアの問題は、現代社会においてますます重要な課題となっています。性別によるキャリアの不平等は、多くの国で依然として存在し、特に女性やマイノリティが直面する障壁は深刻です。本記事では、ジェンダーとキャリアの現状を具体的なデータや事例を交えて分析し、未来への展望を探ります。キャリアコンサルタントとしての視点から、今後の改善策や取り組むべき課題についても考察します。
1. ジェンダーとキャリアの現状
1.1 現在の男女格差のデータ
ジェンダーによるキャリアの不平等は、多くの国で依然として根強く残っています。世界経済フォーラムの2020年の報告によれば、男女の賃金格差は依然として大きく、平均的に男性が女性よりも約23%多く稼いでいます【1】。2025年版報告書(Global Gender Gap Report 2025)によると、経済的な機会に関する格差は依然として大きく、解消された割合はわずか61.0%でした【2】。同報告によると、2025年時点で、所得格差の全体で48.1%が未だ解消されていません。また、所得格差を示すパリティスコア(女性の所得が男性の所得と比較してどれだけ追いついているか)は、多くの国で改善を経験しているものの、依然として大きな開きがあります【2】。2025年現在、日本の男女間賃金格差は過去最小水準まで縮小していますが、その差は依然として大きいものです。最新の厚生労働省「2024年賃金構造基本統計調査」によれば、フルタイム労働者の月額賃金は男性を100としたとき女性は75.8で、女性の月給は27万5,300円、男性は36万3,100円でした【3】。
1.2 職場における性差別の現状
性差別は職場でのジェンダー不平等を助長する主要な要因です。ハーバード大学の研究によると、女性は男性よりもリーダーシップポジションに昇進する確率が低いことが示されています【4】。この2024年の研究では、職場における昇進機会のジェンダー格差を追跡し、「100人の男性が昇進するごとに81人の女性しか昇進していない」という統計を示しました。この「broken rung(壊れた足場)」現象が、女性が上層部リーダーシップに到達しにくい主要因であると指摘しています【5】。さらに2025年、交渉学の視点から、無意識の偏見が昇進判断やリーダーシップ評価に影響を与えるメカニズムを分析し、女性とマイノリティが昇進過程でシステム的に不利な扱いを受ける可能性を指摘し、指導層がどのようにバイアスを抑制できるかを提案しています【6】。
視点を我が国に転じると、JILPTによる調査では、日本企業における女性管理職割合は依然として「約14%」に留まり、韓国(17%)や台湾(27%)より低水準であることが報告されています。昇進において「長時間労働を前提とする評価制度」と「育児・介護支援制度の利用に伴う不利益」が重要な障壁として指摘されています【7】。
2. 成功事例と取り組み
2.1 女性のキャリア成功事例
女性がキャリアにおいて成功を収めた具体的な事例は、他の女性にとって大きな励みとなります。例えば、マリッサ・メイヤー(元Yahoo! CEO)は、テクノロジー業界で成功を収めた一例です。彼女はGoogleでキャリアをスタートし、数々のプロジェクトを成功させた後、Yahoo!のCEOに就任しました【8】。わが国では、NECが「C-Wing:女性管理職の会が果たす役割」と掲げた取り組みにおいて、2025年度末までに女性管理職比率20%、女性従業員比率30%を達成するという明確な数値目標を掲げて取り組んでいます【9】。このほかにもJALや資生堂などいくつもの会社が女性活躍を巡った取り組みをしていますが、まだまだ成功事例は少ないのが現状です。
2.2 企業のジェンダー平等推進策
多くの企業がジェンダー平等を推進するための具体的な取り組みを行っています。
女性活躍推進法に基づく行動計画の策定・公表(従業員101人以上の企業は、女性管理職比率や採用比率などの現状を分析し、改善目標を設定して行動計画を策定・公開する義務があります。これにより企業内部の透明性と責任が強化されます)【10】
「えるぼし認定」制度の活用(女性活躍推進における優良企業を認定し、公共調達での加点や低利融資などの優遇措置が受けられます。これにより企業の制度改革の推進力を高めています)【11】のほか、
技術分野における女性比率増加施策(AI分野や運航・技術職での女性比率向上を目標にした具体的プログラムを実施。たとえばANAグループは2025年末までに技術・運航部門の女性社員数を2019年比で25%増加させる計画を進めています)【12】。
育児・介護支援充実と働き方改革(
女性がキャリア継続しやすい環境整備として、柔軟な勤務時間や在宅勤務制度、復職支援が普及)【11】。
無意識のバイアスを減らす意識改革・研修(ジェンダーバイアスに関する教育プログラム、管理職への意識改革研修を施す企業の増加)【13】などが行われています。
3. 未来への展望
3.1 政策と企業文化の変革
ジェンダー平等を実現するためには、政策と企業文化の変革が不可欠です。例えば、北欧諸国では育児休暇制度の充実や性別に関係なく働きやすい環境作りが進んでいます。スウェーデンでは、育児休暇の男女共用が進んでおり、父親の育児参加率が高いことが報告されています【14】。
3.2 テクノロジーの活用と柔軟な働き方
テクノロジーの進展により、リモートワークやフレキシブルな働き方が広がっています。これにより、性別に関係なく柔軟に働ける環境が整いつつあります。例えば、リモートワークを推進する企業では、女性の管理職比率が高まる傾向にあります【15】【16】。
先に挙げた我が国における企業のジェンダー平等推進策により、日本企業でも女性の管理職登用率や技術職比率の着実な改善が進んでいます。ただし、2025年時点で日本のジェンダーギャップ指数は148か国中118位と依然低水準であり、制度の強制力不足や意識改革のさらなる推進が課題です。しかし、多様な施策が併用されることで着実な前進が見られています【17】。
まとめ
ジェンダーとキャリアの現状は、依然として多くの課題を抱えていますが、具体的な成功事例や企業の取り組みを見ると、確実に進展が見られます。政策の改善や企業文化の変革、テクノロジーの活用など、さまざまなアプローチを通じて、ジェンダー平等を実現する道筋が見えてきています。今後も持続的な努力と取り組みが求められますが、これらの取り組みが実を結び、より平等な社会の実現に繋がることを期待します。
【参考資料】
【1】World Economic Forum, 2020. “Global Gender Gap Report 2020.
【2】World Economic Forum, 2020. “Global Gender Gap Report 2025.
【3】厚生労働省「2024年賃金構造基本統計調査」結果からみる女性賃金の現況
【7】独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT, 2024年) ジェンダー多様性と昇進格差に関する国際比較分析:日本・韓国・台湾企業の実態 発表年:2024年3月
【8】Encyclopaedia Britannica. (2025). Marissa Mayer. Britannica Money. (伝記記事)
【9】NECが描く未来の女性キャリア―成功例から見る成長と挑戦の軌跡 KOTORA JOURNAL 2023年
【10】パソナ:【2025年】ジェンダーギャップ指数の課題と日本の現状:改善に向けた取り組みを解説
【11】PERSOL:女性活躍推進の企業事例10選│共通の取り組みと成功要因を解説
【13】日本政府「骨太の方針2025」にAI分野のジェンダーギャップ解消に向けたWaffleの提言が明記 2025年6月
【15】女性管理職登用の求人明示増加とリモートワーク環境整備の関連(2025年調査)